実例英文法 第4版
オックスフォード大学出版局
著者 A.J. トムソン A.V. マーティネット
訳注 江川泰一郎
この本は、英語を母語とする英語教育の専門家の著書を日本人英語学習者のために翻訳したものです。
対象
著者は
『中級および中級を終えた英語学習者を対象にしているが、さらに進んだ学習者はもちろん、英語の先生方にも大いに参考になるであろう』
と述べています。
それで初心者向けではありませんが、ある程度英語の基礎ができていて、英文法に詳しくなり人に向いていると言えます。
特色
1.豊富で分かりやすい例文が載せられています。高校までの英語で十分理解できるものばかりです。
2.イギリス人の著書ですが、きめ細かくて分かりやすい説明がなされています。著者は英語を母語としない学習者に教えた経験が豊富です。
3.内容が学問的にも高く評価されています。
中には、これまで考えたこともないと感じた説明もありますが、英文のニュアンスを理解するのに役立ちます。
ひとつの例として、Be動詞の基本的な用法の中にこんな解説があります。
身体あるいは精神の状態を表わすために使われるbe
この用法の動詞beは一般に進行形には使わない。しかし、一定の形容詞、例えばquiet/noisy, good/bad, wise/foolishなどは進行形にすることができる。ⅰTom is foolish. (=Tom always acts or talks foolishly.) トムはばかだ
ⅱTom is being foolish. (=Tom is acting or talking foolishly now.) トムは(今一時的に)ばかなことをしている、言っている
さらに、stupid, difficult, funny, politeなどはbeの進行形とともに使うと、故意にそうしているという含みを持つ。You are being stupid. わざととぼけている
He is being difficult. わざとすねている
などなど、とても参考になります。ネイティブで、しかも微妙なニュアンスを外国人に説明する経験が随所に生かされています。
4.〈訳者注〉が随所にあり、ネイティブの説明を日本人にも分かりやすくする工夫がなされています。同時に、アメリカ英語の語法も必要に応じて説明されています。
日本人の参考になる例として、名詞の種類と用法についてこう説明されています。
『英語には4種類の名詞がある。1.普通名詞(Common nouns) 2.固有名詞(Proper nouns) 3.抽象名詞(Abstract nouns) 4.集合名詞(Collective nouns) 〈訳者注〉わが国の学習英文法では、以上の4種類に物質名詞(Material nouns)を加える』
名詞の分類の仕方が、英文法学者と日本の学習英文法では少し違うことが分かります。
英米の違いを説明した例として、現在完了について次のように説明されています。
『現在完了はjustを伴って、完了したばかりの動作を表わす。
He has just gone out. (たった今出かけたばかりです)
〈訳者注〉この場合アメリカ(の口語)ではよく過去時制が使われ、He just went out.となる』
それで、単に文法事項と例文だけでなく、含みや違いが丁寧に説明されています。
この本を熟読し、英文法を土台として、例文を覚えていくのがよいでしょう。分量がかなりあるので通読するよりは、必要に応じて項目を探して参照する方が実際的です。そのための索引も巻末にあります。覚えた例文を実際に使うようにすれば、会話もうまくなることが期待できます。
しいて欠点をあげると、1985年に第4版が出版されているので、最新の英語表現は含まれていません。新たに使われるようになった表現を知るには、日々のニュースなどを読んだり聴いたりして補うといいでしょう。でも規範となる英文法を学ぶという点では、本書は最も優れた文法書です。英語を真剣に学んでいる人におすすめします。